、いつもの岩井半四郎とは変り、何としても、そうした、いわば踊りの腹芸とでも申すべき、ところが少しも見えなかったので御座います。それから、三味線の調子が変り、唄も、ひとしお、渋くなってまいりまして、
 ※[#歌記号、1−3−28]都育ちは蓮葉《はすっぱ》なものじゃえ
 と、歌は切れ、合の手でございまして、この三味線の間に、白拍子の花子が、上に着ている衣裳をぬぐのでございます――つまり、引抜くのでございますが、普通の踊りの時のように、踊りの手をやめたり、舞台の後方へ退いて、ひき抜くのではございません。三味線の合の手[#「合の手」に傍点]に合せて、手毬つくしぐさをしながら、脱ぐのでございます。――役者ひとりが、ぬぐのではなく、後見のたすけをかりるのでございます。それは、衣裳の袂、胴、裾、と申しますような部分をばらばらにいたしまして、引きぬくのでございますが、そうしたところを、綻《ほころ》ばしまするには、俗に、玉と申すものを引くのでございます。これは、縫ったまま、止めてない糸のことでございまして、たやすく、引くことの出来るように、糸の先きに小さい玉がついており、こうしたところから、玉という名称
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