、それが、一つの異った型になったのだ、と申すのでございます。しかし、こうした偶然は、つねに舞台でくりかえすことは、勿論のこと、不可能でございますから、この型を踏襲されていた江戸役者の方々は後見にいい付けて後にはねた烏帽子をわざわざ綱にかけさせていた、――というので御座いました。私は、こうした事を思い出し、師匠の、
「綱に、綱に……」
 と、申されたのは、私にそうした事を命じていらっしゃるのだ――と考えまして、その通りにいたした事でございました。しかし、半四郎師匠は、何故か、明かに興奮していらっした様子でございまして、そうしたことをいたしました私に対しても、毀誉《きよ》を意味する何の表情も、お見うけすることが出来なかったのでございます。

        |○|[#「|○|」は縦中横]

「これだけでも、あの時の半四郎師匠が、常とは変っていたことがお分りになるでございましょう。しかし、変っていると申しますれば、歌詞の最初あたりの、
 ※[#歌記号、1−3−28]言わず語らぬ我が心……
 と、このあたりで、初めて、清姫の正体がほのめかされるのでございますが、もう、この頃から、どうしたものか
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