たといたしましても、鐘から人の目にかからぬように、出る術もございますまい。――鐘がつりあげられる時、鐘の内部につかまっていた、といたしましても、それでは、舞台の上に引き上げられた鐘の中からどうして逃げ去ることが出来ましょう。
 このように申しますと、それでは、鐘の伏さっていた舞台に、奈落へ抜けるすっぽん[#「すっぽん」に傍点]があったのではあるまいか。鐘が舞台に下りると、犯人は、そこから、鐘の内部にせり上り、再び、奈落へ逃げ去ったのではあるまいか。――と、仰せになるかも存じませぬ。しかし、今も申しましたように、半四郎が変化の扮装をなさるのは、鐘の中でございましたので、鐘をすっぽん[#「すっぽん」に傍点]の上に降ろす必要もなく、ずっと離れた、舞台の中央に近いところに、降ろされていたのでございます。従って、犯人が奈落から侵入したとも考えられないのでございます。
 いま申し述べました情況の一切は、一座の人達や、道具の方々によく、分っておりましたので、半四郎の身体が、楽屋に運ばれ、ほっと、一と息つくと、舞台に残った人々は、期せずして、鐘の中が怪しい――と、いうように感じたのでございましょう。じ
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