なしてん》が大勢出てまいります。それからが、鐘を引き上げるくだんでございます。私たちは、じっと、息をこらして、鐘の上るのをまっていたのでございます。
 観客のどよめきと共に、鐘は上ったのでございます。中には、もう、変化になり終られた岩井半四郎が、被衣《かつぎ》を冠って、俯せになっております。これに、花四天がからみまして押戻しが出、そして、引っぱりの見得《みえ》となって、幕になるので御座います。ところが、唄が進みましても、変化にかわった白拍子が起き上らないのでございます。この瞬間、誰もがほとんど同時に、ある不気味な予感を感じたのでございましょう。あっと思わず、前かがみになりました時、舞台の横から、
「幕だ……」
 と、鋭い声が聞えたのでございました。

        |○|[#「|○|」は縦中横]

 名優、岩井半四郎の死因には、とてもむつかしい、専門的な名が付せられておりましたものの、結局、前額部に受けた外傷と、その結果としての急激な精神的衝撃のために、ご年輩のためでもございましょうが、つね日ごろから、ご丈夫でなかった心臓に、致命的な変化が起きたのでございました。――と、こう申します
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