ございます。しかしそれにいたしましても、白拍子に扮装なさっている半四郎のあまりにも、異常な、そして、狂気じみた、その目なざしにその時、ふと、変な気もちになりましたのは、私のみでございましょうか!

        |○|[#「|○|」は縦中横]

 踊りも、いよいよすすみまして、
 ※[#歌記号、1−3−28]思えば/\恨めしやとて
 と、蛇心をあらわすくだりになって参ったので御座います。そして、
 ※[#歌記号、1−3−28]龍頭に手を掛け飛ぶよと見えしが、引きかずいてぞ失せにける
 と、この文句で、白拍子の岩井半四郎さまは、鐘の中へお入りになったのでございます。

 舞台の中央には、鐘がふさっており、主演者のない舞台はお坊主さんたちにまかれております――つまり、祈りの段でございます。正面の山台にい並んだ長唄のご連中は、淋しい舞台を、唄で補う為でございましょう、一としお、声たからかに、
  謡うも舞うも法《のり》の声
 と三味線につれて、唄っていらっしゃいます。そうしたときに、鐘の中では、変化の拵《こしら》えが行われているのでございまして、舞台のお坊主連中と、入れかわりに、花四天《は
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