わったまま、あえぐ様に、唯、こう云ったままで、指で二階をさされました。健さんと、小母さん、そして、光子さんも、顔色をかえて、二階へ駈け上られました。師匠はお稽古台に、がっくりと、頭をのせたまま、もう、すっかりこと切れていられたのでございます。しかし、その時にはまだ身体には暖かみが、十分に残っていたのでございますから、死後あまり時間が経過していなかったことは明らかで御座います。

        三

 警察では色々と、お調べになりましたが、事件のありました二階は、私達が坐っていた部屋を通り、そして、梯子段を上らないと、どこからも決して、行かれないのでございまして、表には、打ちつけの格子がはまっており、裏手には物干台がありまして、ガラスの障子が閉切《たてき》ってあるのでございますが、何時も内側から閂《かきがね》をかけていられたのでございます。従って、犯人は外部から侵入した者とは思えず、当時、師匠の宅にいた人達と考えられたのでございます。
ところが、この人達と申しますのは、
(い)呉服屋さんの健さん
(ろ)光子さん
(は)師匠のお母さん
(に)菓子屋の幸吉さん、それに、
(ほ)私
の五人で
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