ございまして、(い)の健さんと、(ほ)の私とには何のお疑いも、かからなかったのは当然のことでございましょう。
光子さんは、警察のお取調べに対して、次の様に申されたと承っております。
「私は、あの四日前から勧進帳の、お稽古を始めて頂いたのでございます。唄と三味線を習っておりましたので、普通の通り、まず唄のお稽古をして頂き、唄が上ると、三味線を始めて頂くことになっていたのでございます。あの前日には、唄はもう、すっかり、済ませていただいたのでございますから、当然、三味線のお稽古を始めて頂く筈でございましたが、どうも、も一つ、自信がない様に思いましたので、もう一日だけ、唄のおさらいをして頂き、あくる日から、三味線にかかって下さいます様に、と、お願いしたのでございました。師匠は、頭が痛いので、と、とても御気嫌が悪い様でございましたが、私がお願いした通りあの日も唄をさらって下さったのでございます。私のおけいこ振りは、下にいられた皆様がお聞きになっていた通りでございまして、大変に出来が悪うございました。私は、どうにか、お稽古をすませて頂きますと、お師匠さんに有難うございました、と挨拶し、逃げる様に
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