、階下に降りたのでございます。お師匠さんは、私の言葉に、小さな声で左様なら、と、お答えになりましたが、よほど、お頭《つむり》が病《や》めていましたものか、そのまま、お稽古台の上に、俯伏《うつぶせ》になられました」
光子さんの次には、師匠のお母さんが、お取調べを受けられたのでございますが、警察でなさいました陳述は、次の様であった、と承っております。
「何でまた私が、そうしたお疑いを受けるのでございましょう。お仰せになります様に、あれは私の実の子では御座いません。しかし、三つの年から二十三まで、手しおにかけて育てた、わが子に相違はございません。何でまた、私が手をかけてよろしゅう御座いましょう。お仰せになります様に、私には実の子がございます。あの娘よりも三つの年上ことし二十六でございます。私が、あの家に嫁入りします前に生んだ子供で、二三年前から密かに逢っていたのは事実でございます。娘が死ねば、相当まとまったお金のはいる事、もし、そうした暁には、私と実の子が、誰に何の気兼もなく、一所に住める事は、お仰せの通りでございます。しかし、いくら、実の子供と申しましても、二十幾年も他人にまかせきり
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