小母さんの方をむいて、畳に手をつかれました。
「師匠は気嫌が悪いでしょう。頭痛がすると朝から云っておりますが、物を云っても返事もしないほどでございますよ」
小母さんは、小さな声で、こう云われまして、子供のするような科《しぐさ》で、少し肩をすくめられました。光子さんは、
「ええ」
と、微笑されて、私と健さんとの前に坐られました。そして、
「いらっしゃいませ」
と、挨拶をなさいました。小母さんは、火鉢の上で、快い音をたてて、沸《たぎ》っている鉄瓶のお湯を湯呑に入れて、二階へもって行かれました。丁度、その時菓子屋の幸吉《こうきち》さんが、這入って来られたのでございます。
この方は、高松屋《たかまつや》という、町では相当に老舗《しにせ》た、お菓子屋の息子さんでございまして、親の跡をつぐために、お店で働いていられたのでございます。見ると、手には、お店の印の入った風呂敷包みを持っていられます。
「光子さんも広子さんも、お揃いでございますね」
幸吉さんは、私たちに、こう云って、健さんの方をむかれると、
「嫌なお天気でございますね。頭の重い……」
と、申されました。
「ほんとでございますね
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