光子さんと健さんとの、仲のいいのは、師匠の宅でも、内密でお噂していた事でございまして、時間を申し合せて来られるのか、何時もお二人は同じ頃に来られて、お稽古を待ち合せては、一所におかえりになる――と、いい加減お年寄りな小母さんまでが(こうも女は口賢《くちさが》ないものでございましょうか)お子供衆の弟子さんを対手に、そうしたお噂をされていた事がございました。
「そうでございます。聞き覚えておきますと、お稽古をして頂く時に、ほんとに、役に立つ様でございます」
 私が、こう、お受け答えいたしますと、小母さんは、話の機会《しお》を見付けられた様に、長煙管《ながきせる》を、火鉢の縁で、ぽんと、はたかれまして、
「ほんとでございますよ。こんな、お稽古ごとにも、岡目八目と申すのがあるのでございましょうか……」
 とお追従《ついしょう》笑いをされまして、新しく、煙管を吸いつけられました。その火が、蛍の光の様に――しかし、どす黒く赤く――薄暗くなった奥の部屋で、消えてはつき、ついては、消えていた事を憶えております。
 光子さんは調子よく唄っていられました。あの、むつかしい、
 ※[#歌記号、1−3−28]
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