ばれる。

        六

 ――ここまで、お話し申しますと、私が前に、勧進帳の文句にある、
 ※[#歌記号、1−3−28]判官おん手を取り給い
 が、どうも、おかしい、と申しましたのも、故あることとお考えになると存じます。主人の義経が、弁慶の手を取られるのでございますから、おん手[#「おん手」に傍点]では、勿論のこと、変でございましょう。こうした誤謬《ごびゅう》も、長唄が家庭音楽として発達して参りましてからは、前述の様な個所と共に、改められまして、一と頃は、古い文句と、新しいのとが唄本に並べて記されていたものでございます。つまり菖蒲《あやめ》浴衣《ゆかた》の三下《さんさが》り、
 ※[#歌記号、1−3−28]青|簾《すだれ》川風肌にしみじみと汗に濡れたる[#ここから割り注]枕がみ[#改行]袖たもと[#ここで割り注終わり] 合|鬢《びん》のほつれを簪《かんざし》のとどかぬ[#ここから割り注]愚痴も惚れた同士命と腕に堀きりの櫛も洗い髪幾度と風に吹けりし[#ここで割り注終わり]水に色ある 合花あやめ
 の様でございます。つまり、向って右側には古い文句、左には新しいもの、といった風に塩
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