ず、とつめよせる。義経主従のものは、この思いもかけぬ言葉に動揺するが、弁慶は咄嵯の機転で笈《おい》の中から一巻の巻物を取り出し、勧進帳と名づけつつ、声高らかに読み上げる。これで、関守富樫左衛門の疑も晴れ、通れ、と許しが出る。が、強力《ごうりき》姿の義経が、判官に似かよっている事から、一同は再び引きもどされる。弁慶はじめ、四天王の面々は、はっ、と驚く。もう、これまで、と刀に手をかけ、関を切り抜けようとする。弁慶は血気にはやる人々を押しとどめ、強力姿の義経につめよる。
「日高くば能登《のと》の国まで越えうずると思えるに、僅かの笈一つ背負うて、後にさがればこそ人も怪むれ」
と、怒りの形相物凄く、金剛杖をおっ取って、散々に打擲《ちょうちゃく》する。関守の富樫は、義経主従と看破してはいるものの弁慶の誠忠に密かに涙し、疑い晴れた、いざお通りめされと一同を通してやる。
義経主従は、毒蛇の口を逃れた思いで、ほっと、息をするが、弁慶は敵を欺く計略とはいえ、主君を打った冥加《みょうが》の程も恐ろしい、と地に手をついて詑び入る。すると、義経は、汝の機転故にこそ危いところを逃れ得た、と弁慶の手を取って喜
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