去りたいと思った。
 ただ二人の新聞記者だけがあとに残った。大佐は夫人を女中共にあずけた後、この二人の記者と、警戒の探偵三人とで共々に邸内くまなく調べたけれど、怪しい点の何者をも見出すことは出来なかった。そこで大佐はシャンペンを上げた。そして新聞記者は帰って行った。それは夜中の二時四十五分であった。
 記者を送り出すと、大佐も寝室に入り、探偵達も例の部屋へ引き取った。でもこの探偵達は部屋に帰っても寝ることは出来ない。夜通しで、庭を見廻ったり、陳列室を覗いてみたりして警戒をせねばならなかった。
 しかしこの規定は朝の五時から七時までは睡《ねむ》ってよかった。それは外にはもう日が昇って、もしものことがあっても、電鈴が少しでもひびけば、誰も眼を醒まさぬわけはないからである。
 ところが、七時二十一分に、探偵の一人が陳列室の扉を開けて、例のように覗いてみると、壁布が一枚だって無かった。彼は気も遠くならんばかりに仰天した。
 あまりの事に周章《うろた》えたか、これを早速大佐には告げないで、すぐに警察へ通知した。ひとまず主人に通知した上で警察へ通知したとて遅いことはない。何もそれがために警察の仕事
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