がうまく行かないようになるという事もない。と、その計らいは評判が悪かった。
彼がこの事を大佐に告げたのは八時半であった。この時、大佐は外出の仕度をして今にも出かけようとしている所であった。大佐は探偵から委細を聞き取ったが、さほど驚いた風を現わさなかった。いや、これは大きな驚きを押さえ隠して、うろたえた場面を見せまいとしたのであろう。でも、さすがの大佐も終《つい》にたまらない風に、ドカリと椅子の上に尻餅をついて、しばしはぼんやりと口も利かなかった。探偵等はこれほどの剛気な人がと思って、その心中を十分に推察することが出来た。
まもなく自分に返った大佐は、気をとり直して陳列室に入り錦の壁布のはぎ取られた壁を改めていたが、やがてテーブルに倚《よ》ってサラサラとペンを走らせた。そして一通の手紙は探偵に渡された。
『私は今大急ぎなんです‥‥至急に訪問しなければならぬ人がありますから‥‥この手紙を、警察の方がお出でになったら渡して下さい。』
『かしこまりました。』
大佐は手紙を渡すと、いらいらして走るように出て行った。しばらくその後姿を見送っていた探偵は、その時のそわそわした落着かぬ様子を後で
前へ
次へ
全37ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
婦人文化研究会 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング