思い合せることがあった。
 警視庁から、警視がやって来た。大佐の置手紙は開かれた。それにはこんな事が書いてあった。

[#ここから2字下げ]
愛する者に悲しみを見せるのは忍びないことであるけれど、これも運命だとあきらめてくれ。お前の名は最後まで思いつづけるであろう。
[#ここで字下げ終わり]

 人々はあッとばかりに驚いた。あわれ大佐はあまりの失望から遂に自殺を決心したのである。一片の遺書はいたずらに机上にひるがえった。ああ、大佐は果して自殺するだろうか?
 遺書は直ちにスパルミ[#「ミ」は底本では欠落]エント夫人に届けられた。夫人の驚きはくどくどしく説くの要はあるまい。多くの人は八方に走り出た。大佐の行先を草を分けても捜そうとするためである。婦人はその人々の吉報を今か今かと首を長うして待っていたけれど、時間は遠慮なく経つばかりで、まだ何の消息もない。
 と、その日の暮れ方ヴィルダブレイという町から電話がかかって来た。ただ今トンネルの出口に顔の形もないように無残に轢殺《れきさつ》された一人の男が発見された。固《もと》より確かな根拠のあるわけではないが、その服装や所持品などから[#「ら」
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