たが、ガニマールは返事もしなかった。課長は彼の挙動の尋常でないのを見て取った。課長は彼のこんなに昂奮している様をかつて見たことがなかった。
『どうした。変った事があるのかい?』
課長も引入れられて緊張せざるを得なかった。
『はい、今度こそは、課長! しかし実に自分にも信ずることが出来ないような事件です。[#「。」は底本では欠落]でも、断じて誤っていません。全く真相を掴みました。事実とは思われない事実です。全く、嘘でも誤解でもありません。真実です。』
主任刑事は額の汗[#「汗」は底本では「汚」]を押し拭いながら、充血した眼を上げてこう云った。彼は冷水をグッと飲みほして気を落ちつけると更に語を続けた。
『これまで私は何度も何度も失敗《しくじ》りましたが、今度こそは‥‥』
『そんなことはどうでもいい。事件の方を、結局どうした?』
『いや、細かく云わねばお解りになりませんよ。私の実験したいろいろの事情を申上げねば‥‥合理的な順序であることがお解りになりませ[#「せ」は底本では欠落]んよ。』
ガニマールの意外な意気込に、課長も声を落して聞き入った。
『これまで何度もの失敗に、私はさんざんな
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