、たれも出てくるものも、声をかけるものもありません。そのくせ、炉《ろ》の火はかんかんもえていて、テーブルには、ちゃんと一人前のごちそうと、お酒のしたくがしてありました。
商人は、なにしろ肌《はだ》の下まで雪がしみとおっていたので、かまわず炉《ろ》の火でからだをかわかしながら、ひとり言《ごと》のようにいいました。
「ごめん下さい。いずれ出ておいでになることとおもいますが、このおうちのご主人さまなり、お召使の方なり、どうか火にあたらせていただきます。」
こういって、しばらく待っていましたが、たれも出てくるものがありません。時計《とけい》は、十一時をうちました。するうち、おなかがへって、気がとおくなりそうなので、テーブルにあった若鶏《わかどり》をひときれ、おっかなびっくらたべました。ぶとう酒も四五杯のみました。これでおなかができると、げんきも出てきて、ゆっくりそこらを見まわしました。やがて、十二時をうったとき、商人は、あいている戸から広間をぬけて出て、いくつもいくつもすばらしいへやを通って、さいごに、ねごこちよさそうなベッドのおいてあるへやに来ました。それをみると、もうとてもくたびれきっ
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