、商人は、出かけたときよりも、もっとびんぼうになって、またとぼとぼ、いなかの家へかえって行くほかはありませんでした。あいにく冬で、もうあと、うちまで十五里という所まで来て、日はとっぷりくれる、道は雪でうずまってしまいました。おまけに、大きな森ひとつとおりぬけなければなりません。さむさはさむし、おなかはすく、商人は、もうこのままここで、行きだおれになるかとおもいました。
するうちふと、ながい並木道《なみきみち》のはるかむこうに、ぽつんとひとつ、火あかりがみえました。商人は、ほっとしながら、のっていた馬のくびを並木道のほうへむけて、道のつきる所まで行ってみますと、あんがいにも、そこに、すばらしくりっぱな御殿が立っていました。しかも、窓からは、赤あかとあかりがさしていながら、中には人ひとりいるけはいがありません。戸をたたいてみても、庭にまわってみても、やはりしんかんとしていました。そのあいだに、のってきた馬だけが、うまやの戸のあいているすきからはいりこんで、まぐさ槽《おけ》のほし草やからす麦を、がつがつしてたべていました。商人は、馬をのこして、自分だけそっと、中へはいってみましたが、やはり
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