島田虎之助といふ人が彼方此方の試合の場を踏む人であつたなら、机竜之助の剣術ぶりも見たり或は其の評判も聞いたりして、疾くにさる者ありと感づいたであらうが、さういふ人でなかつたからこの場合、たゞ奇妙な剣術ぶりぢやとながめてゐるばかりです」――こう書いてある。島田虎之助は当時有数の剣客であったが、方々出歩くことをしないので、竜之助の剣術を見たこともなし、評判を聞いたこともなかった、というのですが、竜之助の剣術が非常にすぐれたものであったならば、ただ奇妙な剣術ぶりだといって眺めているはずはない。構えをみただけでも、これはどのくらいの腕前がある、ということがわからなければならない。それを見てわからないとすれば、島田虎之助はえらい剣客でも何でもないわけだ。
一〇三頁になると、お松という女が、例の山岡屋へ買物に来ていた、花の師匠か何かのところに世話になっていて、四谷伝馬町の神尾という旗本の屋敷へ、奉公に出る話が書いてある。この四谷伝馬町はどういう町であったかというと、これは市街地で、武家地ではない。武家地でないのだから、大きな大名でありませんでも、旗本衆の屋敷でもそういうところにあるはずがない。こ
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