思うと、また二人に向って、「お前さん方は山岡屋の御親類さうな」と言っている。いつも買いつけにしている町人の家、その親類に「御」の字をつけるのは不釣合だ。しかるにまたこの女は、「ぞんざい[#「ぞんざい」に傍点]といふのはわたしの言ふことよ」とも言っている。二十八九にもなっている女が、武家奉公をしたことがある者にしろ、ない者にしろ、こんな今の女学生みたいな言葉を遣うはずがない。この「わ」だの、「よ」だのというのは、すべて幼年の言葉で、それもごく身分の低い裏店の子供のいうことです。たとえどういう身柄の者にせよ、二十八九にもなる女が、そういう甘ったるい口を利くのは、江戸時代として受け取ることは出来ない。
六五頁に「下級の長脇差、胡麻《ごま》の蠅もやれば追剥も稼がうといふ程度の連中」ということが書いてある。「下級の長脇差」というのは、博奕打の悪いの、三下奴とでもいうような心持で書いたんでしょうが、博奕打は博奕打としておのずから別のもので、護摩《ごま》の灰や追剥を働くものとは違う。追剥以上に出て、斬取強盗をするようなやつなら、護摩の灰なんぞが出来るはずはない。作者は護摩の灰をどんなものと思ってい
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