を着ていたのかわからない。作者もそれが何であったかということを説明していない。この女が髪の美しい女であって、「それを美事な高島田に結上げてありました」とも書いてあるが、大名の姫君というものは、高島田などに結っているものではないはずだ。これはどうしたことか。
これからこの娘が父親のことを、「父様《とうさま》」といっている。いくら大尽の家の親父にしたところが、その子供が「父様」なんていうことはないはずだ。
五四九頁になると、この馬大尽の家の女どもが、主人のことを話している。これは甲州の在方の話らしいのに、「なのよ」というような、すこぶる新しいところを用いている。これが文久頃の甲州の女だと思うと、よっぽど不思議な気持がする。ここで、この家の女房のことを、「奥様奥様」と言っているのは、例によっていけません。「変なお屋敷でございますよ」ともあるが、百姓の家をお屋敷というのも何だか変だ。
五五〇頁になって、「こんな大家の財産と内幕は、わたし達の頭では目当が附きません」ということがある。今日からみると、何でもないようなことであるけれども、この時分の田舎の女が、「わたし達の頭」なんて、「頭」とい
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