島田のごとき、当時の第一人とさえ聞えた人物に、鍔競合なんてばかげたことがあろうはずがない。こういうばかなことを書くのはあさましい。一度作者がこんなことを書き出して以来、その後にめちゃめちゃな剣道、柔道の話が簇出《ぞくしゅつ》した。その俑《よう》を作ったのは恐るべきことである。

     下

 今度は一冊飛んで、第二巻の一番しまいにある「伯耆の安綱の巻」というのを読んでみました。これも甲州の話で、作者の生れたところに遠くない土地の話です。それだからまず間違いのない方になっている。殊に場所が場所だし、誰もあまり知っている所ではありませんから、まことに目立たなくなっていいかと思う。
 ここで第一番に出て来るのが、有野村の馬大尽というものの家のことです。
 この本の頁でいえば、五四四頁のところに、お銀という馬大尽の娘のことを書いて、「着けてゐる衣裳は大名の姫君にも似るべきほどの結構なものでありました」とある。いくら大百姓でありましても、大名の息女に似寄ったなりなんぞをするということが、この時代から取り離れたことでありますし、「大名の姫君にも似るべきほどの結構なもの」というのは、どういうもの
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