ことにありがたいものであるが、また人を損ねて下さるものも世間である。近来しきりに作者がいう「上求菩提」はよろしいとしても、「下化衆生」に至っては、作者などのいう文句にしては、少々重過ぎる。それが適当にいえる人が、世界に幾人いるだろうか。礼儀を超えてものを言う。殊に作者に対しては無礼であるかと思うことをも、遠慮なしに言うのは何のためであるか。作者に対する自分の心持と同様の心持の人は、けだし人間にも少いのではないかと思っている。
余計な話になった。さて一三二頁に「互の気合が沸き返る、人は繚乱として飛ぶ」というのは何のことだろう。散りしく花の花びらででもあったら、繚乱もいいかもしれないが、実に困った言葉だ。この作者もしきりに「平青眼《ひらせいがん》」という言葉を使っているが、大衆作家はどうして揃いも揃って「正眼」を青くするのか。青眼という言葉の意味を、知らないのであろうか。
それから島田虎之助に向った加藤主税、この両人が斬り合うところに、「鍔競合の形となりました」と書いてある。へぼくたな人間どもなら、かえって鍔競合なんていうこともあるかもしれないが、これは両人ともすぐれた剣客である。殊に
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