しかし單四嫂子は彼女の寶兒に対して実にもう出来るだけのことをし尽して、何の不足もなかった。
きのうは一串の紙銭を焼き、また午前中には四十九巻の大悲呪を焼き、納棺の時にはごく新しい晴れ著《ぎ》を著せ、ふだん好きなおもちゃを添え――泥人形一つ、小さな木碗二つ、ガラス瓶二本――枕辺《まくらべ》に置いた。あとで王九媽が指折り数えて一つ一つ引合せてみたが、何一つ手落ちがなかった。
この日藍皮阿五は丸一日来なかった。咸亨の番頭さんは單四嫂子のために二人の人夫を雇ってやると、一人が二百と十文大銭で棺桶を舁いで共同墓地へ行って地上に置いた。王九媽はまた煮焚きの手伝いをした。おおよそ手を動かした者と口を動かした者には皆御飯を食べさせた。
太陽が次第に山の端に落ちかからんとする色合いを示すと、飯を食った人達も覚えず家に帰りたい顔色を示した。そして結局皆家に帰った。
單四嫂子はひどく眩暈《めまい》を感じ、一休みすると少しは好くなったが、続いてまた異様なことを感じた。彼女はふだん出遇わないことに出遇った。有り得べきことではないがしかも的確に現れた。想えば想うほど不思議になった。――この部屋がたちま
前へ
次へ
全14ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
井上 紅梅 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング