明日
魯迅
井上紅梅訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)老拱《ろうきょう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)單四|嫂子《あねえ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「目+匡」、第3水準1−88−81]
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「声がしない。――小さいのがどうかしたんだな」
 赤鼻の老拱《ろうきょう》は老酒《ラオチュ》の碗を手に取って、そういいながら顔を隣の方に向けて唇を尖らせた。
 藍皮阿五《らんひあご》は酒碗を下に置き、平手で老拱の脊骨をいやというほどドヤシつけ、何か意味ありげのことをがやがや喋舌《しゃべ》って
「手前は、手前は、……また何か想い出してやがる……」
 片田舎の魯鎮《ろちん》はまだなかなか昔風で、どこでも大概七時前に門を閉めて寝るのだが、夜の夜中に睡《ねむ》らぬ家が二軒あった。一つは咸亨《かんこう》酒店で、四五人の飲友達が櫃台《スタンド》を囲んで飲みつづけ、一杯機嫌の大はしゃぎ。も一つはその隣の單四嫂子《たんしそうし》で、彼
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