ち非常に森《しん》として来た。身を起して灯火《あかり》を点けると室内はいよいよ静まり返った。そこでふらふら歩き出し、門を閉めに行った。帰って来て寝台の端に腰掛けると、糸車は静かに地上に立っている。彼女は心を定めてあたりを見廻しているうち居ても立ってもいられなくなった。室内は非常に静まり返った、のみならずまた非常に大きくなった、品物が余りになさ過ぎた。
非常に大きくなった部屋は四面から彼女を囲み、非常に無さ過ぎた品物は四面から彼女を圧迫し、遂には喘ぐことさえ出来なくなった。
寶兒はたしかに死んだのだと思うと、彼女はこの部屋を見るのもいやになり、灯火《ともしび》を吹き消して横たわった。彼女は泣いているあの時のことを想い出した。自分は綿糸を紡いでいると、寶兒は側《そば》に坐って茴香豆《ういきょうまめ》を食べている。黒目勝ちの小さな眼を瞠《みは》ってしばらく想い廻《めぐ》らしていたが、「媽《マ》、父《ちゃん》はワンタンを売ったから、わたしも大きくなったらワンタンを売るよ。売ったら売っただけみんなお前に上げるよ」といった。あの時はわたしも紡ぎ出した綿糸がまるで一寸々々皆意味があるように思われ
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