なことは一切|乃公《おれ》に任せろ」と言ったが、王九媽は承知せず、「お前にはあした棺桶を舁《かつ》がせてやる」と凹《へこ》まされて、阿五はいやな顔をして「この糞婆め」といったまま口を尖らせて突立っていた。そこで番頭さんがこの役目を引受けて晩になって帰って来た。棺桶はすぐに仕事に掛らせたから夜明け前に出来上って来るとの返辞。
番頭さんが帰って来た時には、世話人の飯は済んでいた。前にも言った通り七時前に晩餐を食うのが魯鎮の慣わしだからだ。衆《みな》は家へ帰って寝てしまったが、阿五はまだ咸亨酒店の櫃台《スタンド》に凭れて酒を飲み、老拱もまたほがらかに唱った。
ちょうどその時單四嫂子は寝台のへりに腰を卸して泣いていた。寶兒は寝台の上に横たわっていた。地上には糸車が静かに立っている。ようやくのことで單四嫂子の涙交りの宣告が終りを告げると、※[#「目+匡」、第3水準1−88−81]《まぶた》の辺が腫れ上がって非常に大きくなっていた。あたりの模様を見ると実に不思議のことである。あったことの凡《すべ》てがあったこととは思えない。どう考えてみても夢としか思えない。凡てが皆《みな》夢だ。あした覚めれば
前へ
次へ
全14ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
井上 紅梅 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング