には一片の侠気があって、無論どうあっても世話しないではいられないのだ。だからしばらく押問答の末、遂に許されて、阿五は彼女の乳房と子供の間に臂《ひじ》を挿入《さしい》れ、子供を抱き取った。一刹那、乳房の上が温《あたた》く感じて彼女の顔が真赤にほてった。二人は二尺五寸ほど離れて歩き出した。阿五は何か話しかけたが單四嫂子は大半答えなかった。しばらく歩いたあとで阿五は子供を返し、昨日友達と約束した会食の時刻が来たことを告げた。單四嫂子が子供を受取ると、そこは我家の真近で、向うの家の王九媽《おうきゅうま》が道端の縁台に腰掛けて遠くの方から話しかけた。
「單四|嫂子《あねえ》、寶兒はどんな工合だえ、先生に見てもらったかえ」
「見てもらいましたがね、王九媽、貴女は年をとってるから眼が肥えてる。いっそ貴女のお眼鑑《めがね》で見ていただきましょう。どうでしょうね、この子は」
「ウン……」
「どうでしょうね、この子は」
「ウン……」
王九媽はいずまいをなおしてじっと眺め、首を二つばかり前に振って、また二つばかり横に振った。
家《うち》へ帰ってようやく薬を飲ませると、十二時もすでに過ぎていた。單四嫂子は
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