って歩き出した。
老店の番頭もまた爪先を長く伸ばしている人で、悠々と処方箋を眺め悠々と薬を包んだ。單四嫂子は寶兒を抱いて待っていると、寶兒はたちまち小さな手を伸ばして、彼女の髪の毛を攫《つか》み夢中になって引張った。これは今まで見たことのない挙動だから、單四嫂子はそら恐ろしく感じた。
日はまんまると屋根の上に出ていた。單四嫂子は薬包《くすりづつみ》と子供を抱えて歩き出した。寶兒は絶えず藻掻いているので、路は果てしもなく長く、行けば行くほど重味を感じ、しようことなしに、とある門前の石段の上に腰を卸すと、身内からにじみ出た汗のために著物《きもの》が冷《ひや》りと肌に触った。一休みして寶兒が睡りについたのを見て歩き出すと、また支え切れなくなった。するとたちまち耳元で人声《ひとごえ》がした。
「單四|嫂子《あねえ》、子供を抱いてやろうか」
藍皮阿五の声によく似ていた。ふりかえってみると、果して藍皮が寝不足の眼を擦りながら後ろから跟《つ》いて来た。こういう時に天将の一人が降臨して一|臂《ぴ》の力を添える事が、彼女の希望であったのだろうが、今頼みもしないで出て来たのがこの阿五将だ。しかし阿五
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