4]《ほのお》が渦を巻き起し、一種異様な薫りが店の方へ流れ出した。
「いい匂いだね。お前達は何を食べているんだえ。朝ッぱらから」
 駝背《せむし》の五少爺《ごだんな》が言った。この男は毎日ここの茶館に来て日を暮し、一番早く来て一番遅く帰るのだが、この時ちょうど店の前へ立ち往来に面した壁際のいつもの席に腰をおろした。彼は答うる人がないので
「炒り米のお粥かね」
 と訊き返してみたが、それでも返辞がない。
 老栓はいそいそ出て来て、彼にお茶を出した。
「小栓、こっちへおいで」
 と華大媽は倅を喚《よ》び込んだ。奥の間のまんなかには細長い腰掛が一つ置いてあった。小栓はそこへ来て腰を掛けると母親は真黒《まっくろ》な円いものを皿の上へ載せて出した。
「さあお食べ――これを食べると病気がなおるよ」
 この黒い物を撮み上げた小栓はしばらく眺めている中《うち》に自分の命を持って来たような、いうにいわれぬ奇怪な感じがして、恐る恐る二つに割ってみると、黒焦げの皮の中から白い湯気《ゆげ》が立ち、湯気が散ってしまうと、半分ずつの白い饅頭に違いなかった。――それがいつのまにか、残らず肚《はら》の中に入ってしまっ
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