「なぜ受取らんか、こわいことがあるもんか」
と怒鳴った。
老栓はなおも躊躇《ちゅうちょ》していると、黒い人は提灯を引ッたくって幌《ほろ》を下げ、その中へ饅頭を詰めて老栓の手に渡し、同時に銀貨を引掴《ひっつか》んで
「この老耄《おいぼれ》め」
と口の中でぼやきながら立去った。
「お前さん、それで誰の病気をなおすんだね」
と老栓は誰かにきかれたようであったが、返辞もしなかった。彼の精神は、今はただ一つの包《パオ》(饅頭)の上に集って、さながら十世単伝《じっせたんでん》の一人子《ひとりご》を抱《いだ》いているようなものであった。彼は今この包《パオ》の中の新しい生命を彼の家に移し植えて、多くの幸福を収め獲《え》たいのであった。太陽も出て来た。彼のめのまえには一条の大道《だいどう》が現われて、まっすぐに彼の家まで続いていた。後ろの丁字街の突き当たりには、破れた※[#「匚+扁」、第4水準2−3−48]額《へんがく》があって「古《こ》×亭口《ていこう》」の四つの金文字《きんもじ》が煤黒《すすぐろ》く照らされていた。
二
老栓は歩いて我家《わがや》に来た。店の支度はもうち
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