かされた。そこは一条の丁字街《ていじがい》がありありと眼前に横たわっていたのだ。彼はちょっとあと戻りしてある店の軒下に入った。閉め切ってある門に靠《もた》れて立っていると、身体が少しひやりとした。
「ふん、親爺」
「元気だね……」
 老栓は喫驚《びっくり》して眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》った時、すぐ鼻の先きを通って行く者があった。その中《うち》の一人は振向いて彼を見た。かたちははなはだハッキリしないが、永く物に餓えた人が食物《たべもの》を見つけたように、攫《つか》み掛って来そうな光がその人の眼から出た。老栓は提灯を覗いて見るともう火が消えていた。念のため衣套をおさえてみると塊りはまだそこにあった。老栓は頭《かしら》を挙げて両側を見た。気味の悪い人間が幾つも立っていた。三つ二つ、三つ二つと鬼のような者がそこらじゅうにうろついていた。じっと瞳を据《す》えてもう一度見ると別に何の不思議もなかった。
 まもなく幾人か兵隊が来た。向うの方にいる時から、著物の前と後ろに白い円い物が見えた。遠くでもハッキリ見えたが、近寄って来ると、その白い円いものは法被《はっぴ》の上の染め
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