ち本の包《つつみ》の中から、正しく書き写した制芸文と試験用紙を脱《ぬ》き出し、それを持って外へ出た。家の門まで出ると凡《すべ》てがハッキリ見え出し、一群の鶏も彼を笑っているので度肝を抜かれて引込んだ。
 彼は部屋に入って席に著くと、二つの眼が異常に光った。彼の眼はいろいろのものを見ながらはなはだ攫《つか》みどころのない。キンカ糖の塔のように崩れた行先が眼の前に横たわった。この行先はひたすら広大にのみなりゆきて、彼の一切の路《みち》を堰《せ》き止めた。
 よその家の煮焚きの烟《けむり》は、ずっと前に消え尽して、箸もお碗《わん》も洗ってしまったが、陳士成はまだ飯も作らない。ここの長屋を借りて住む趙錢李孫(源平藤橘)は長いしきたりを知っていて、およそ県試験の年頭に当り、成績が発表されたあとで、このような彼の眼付を見ると、※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]々《そうそう》門を締めて、余計なことに関係せぬに越したことはないから、真先きに人声が絶え、続いて次から次へと燈火を消してしまうので、冴え渡った月が独りゆるゆると寒夜の空に出現した。
 青い空は一つの海のような工合で、そこにいささか見え
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