たしはたしかに猫の敵《かたき》と見られている。わたしはかつて猫を殺したことがある。平常《いつも》好く猫を打《う》つ、ことに彼等の交合の時において甚しい。しかし、わたしの猫を打《う》つ理由は、彼等の交合に因るのではなく、彼等の騒ぎに因るので、騒がれるとわたしは眠れないからである。わたしは思う。交合は何もこんなに大騒ぎをしなければならないというものではなかろう。まして黒猫は小兎を殺したのではないか。わたしは更に「師《いくさ》を出すに名あり」である。母があんまり善行を修め過ぎるのではないかと思われた。そこで我れ知らず言葉に稜《かど》が立ち、そうではありませんよ、というような答えをしなければならなくなった。
造物はあんまりガサツだ。わたしは彼に反抗しないではいられなくなった。そういいながらかえってわたしは彼の忙《せわ》しない仕事を援助するのかもしれない……
あの黒猫はやがて塀の上に威張っていることが出来なくなるのだろう。わたしは腹を極めた。そこで我れ知らず本箱の中の一瓶の青酸カリウムを眺めた。
[#地から4字上げ](一九二二年十月)
底本:「魯迅全集」改造社
1932(昭和7)
前へ
次へ
全11ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
魯迅 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング