したのを見たが帰って来た時にはもう何一つ見えなかった。運び去ったのだろう。行来《ゆきき》の人はどたばたと歩いているが、かつてここに一つの生命が断ち切られたことを誰れが知ろうか。夏の夜、※[#「窗/心」、第3水準1−89−54]《まど》の外にいつも青蝿のジイジイという悠長な叫びを聞くが、これはきっと宮守《やもり》に食われたのだろう。わたしは前には一向そんなことに気を留めなかった。他の人もまた決してそんなことを聴きつけなかった……
 造物が責任を持つからいいと言えば言うようなものの、彼が無暗《むやみ》に生命を造り過ぎ、無暗に生命を壊し過ぎるとわたしは思う。
 ギャッと一声、また二つの猫が※[#「窗/心」、第3水準1−89−54]の外で喧嘩を始めた。
「迅ちゃん、お前、また猫を打《ぶ》ったね」
「いいえ、あいつ等は仲間同士で咬み合ったんです。わたしに打《ぶ》たれるようなヘマはしません」
 わたしの母は前からわたしが猫を虐待することを好くないことだと思っていた。現在おおかた、わたしが小兎のために不平を抱いて、ひどい目に遭わせたんだろう、と思われたに違いない。家中《うちじゅう》の者の定説では、わ
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