、十分|哺《はぐく》むことが出来ないで、先きへ生れた者は餓死するのである。これはたいがい脱《はず》れっこはない。現在七つのうち二つははなはだ痩せ衰えているから、三太太は暇があると母兎を捕えて、小兎を一つ一つ順番に腹の上に並べて乳を哺《の》ませた。

 母はわたしに言った。そんな面倒臭い養兎法はわたしは今まで聞いたことがない。おそらく無双譜の中に入るべきものだろう。
 白兎の家族は更に繁栄し人々は大に興じた。
 だがそれからというものは、わたしは結局浮世の味気なさを感ぜずにはいられなかった。夜半燈下に坐してつらつら想いめぐらすと、あの二つの生命はいつのまに消えたのかしらん、人知れず鬼悟らず生物史上一点の痕跡もなく、そうしてSは一声も吠えない。わたしはそこで旧い話を思い出した。以前会館の中に住んでいた時、大きな槐《えんじゅ》の樹の下に鴿《はと》の毛が散り乱れていた。これはたぶん鷹に取られたのであろうが、午前小使が来て掃除をしたあとはそこに何一つ残らなかった。ここに一つの生命が断ち切られたことを誰れが知ろうか。わたしはかつて西四牌棲《せいしはいろう》を通り過ぎて一匹の小犬が馬車に轢かれて即死
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