底まで掘り下げて来ると、おそらく臨褥《りんじょく》の時に敷いたものであろう、兎の毛が少し交った一かさの枯草だけあって、その他はキレイさっぱりと、雪白《せっぱく》の小兎はもちろん、あのちょっと首を出して穴の外へも出なかった弟の影さえもない。
 腹立ちと失望の凄じさは、もう一度壁の隅の新しき洞《あな》を掘らずにはいられない。今度は手を掛けるとすぐに、あの大きな二匹が洞外へ這い出した。彼等が屋移りしたのかと思うと、非常に愉快になってせっせと掘り下げてゆくと、底の方に草の葉と兎の毛を敷いて、七つのはなはだ小さい兎が眠っている。身体中が薄赤く、撮《つま》み上げてみるとまだ眼も開いていない。
 一切わかった。三太太の予想は果してあやまらなかった。彼女は危険を預防《よぼう》する考《かんがえ》で、七つの小さなものを木箱の中に入れ、自分の部屋の中に置いて、母兎を箱の中に押入れては乳をのませた。
 三太太はそれから黒猫を恨まなくなった。のみならず親兎がすこぶる善くないと思った。初め二つの被害者を出す前に、まだ多くの者が死んだに違いない。彼等は一回に決して二つやそこら生むものではないが、哺乳が平均しないため
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