ませんよ。おばあさんが怒ると大変です」と言って、それから誰《たれ》とも一緒に行《ゆ》くことを許さなかった。「おばあさんに心配させるものではありません」とまたあとで言った。
 それはそれでとにかくおさまったが、午後になるとわたしの友達は皆行ってしまった。芝居はもう開《あ》いているのだ。わたしは遠音《とおね》に囃《はやし》を聞いて、「今頃は友達が舞台の下で、豆乳を買って食べてるな」と想った。
 その日は一日、釣りにも行《ゆ》かず物もあまり食べないで母親を困らせた。晩飯の時分には外祖母もとうとう気がついて、この子がすねるのも無理はないよ。あの人達はあんまり無作法だ。お客に対する道を知らないといって嘆息した。
 飯を食ってしまうと、芝居を見に行った子供達は皆帰って来た、そうして面白そうにきょうの芝居の話をした。ただわたしだけは口もきかずに沈んでいると、彼等は皆嘆息して気の毒がった。
 雙喜《そうき》という子供は中でも賢い方であったが、たちまち何か想い出して、「大船ならあれがあるぜ。八叔《はちおじ》の通い船《ぶね》は、帰って来ているじゃないか」
 十幾人のほかの子供はこの言葉に引かされて勇み立ち
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