ぶしいキラめき。その時十二時だ。たちまちわたしはとてもこんな処にいられないと思った。同時にわたしは機械的に身を捻《ねじ》って力任せに外の方へと押出した。後ろは一杯の人で通る路《みち》もなかったが、大概その弾力性に富んだ肥えた紳士が、早くもわたしの抜け出したあとに、彼の右半身を突込んだので、わたしは自然に押され押されて木戸口に出てしまった。
街は観客の車以外にはほとんど一人も通行人がなかった。それでも木戸口には十何人か頭を昂《あ》げて芝居の番附《ばんづけ》を見ていた。外に一かたまりの人が、何にも見ずに立っていた。わたしは何にも知らずに来たことを我れながら悔んだが、結局芝居の題目さえも忘れてしまった。
わたしが実際いい芝居を見たのは、それよりずっと前の事だ。
その時おそらくまだ十一二にもならなかったろう。わたしども魯鎮《ろちん》の習慣は、およそ誰でも嫁に入《い》ったむすめは、まだ当主にならないうちは、夏の間たいていは里方に行って暮すのである。その時分わたしの祖母はまだ達者であったが、母もいくらか家事の手伝いをしていたので、夏も長く帰っていることは出来なかった。ぜひなく墓掃除をすました
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