もあるらしかった。漕ぎ手も皆つかれた。無暗に力を出した上になんにも食わないからだ。その時桂生はいいことに気がついた。羅漢豆《らかんまめ》が今出盛りだぜ。火があるからちょっと失敬して煮て食おう。みんなは賛成した。すぐ船を岸へつけておかに上《あが》った。田の中には真黒に光ったものがあった。それは今実を結んだ羅漢豆であった。
「あ、あ、阿發、この辺はお前の家《うち》の地面だぜ。あの辺が六一爺《ろくいちおやじ》の地処だ。俺達はそいつを取ってやろう」
 真先におかへ上《あが》っていた雙喜は言った。われわれは皆おかへ上《あが》った。阿發は跳ね上《あが》って
「ちょっと待ってくれ、乃公《おれ》に見せてくれ」
 彼は行ったり来たりしてさぐってみたが、急に身を起して
「乃公の家《うち》のがいいよ。大きいからね」
 この声をきくと皆はすぐに阿發の家《うち》の豆畑へ入った。めいめい一抱えずつもぎ取って船の中へ投げ込んだ。雙喜はあんまり多く取って阿發のお袋に叱られるといけないと思ったので、皆を六一爺さんの畑の方へやってまた一抱えずつ偸《ぬす》ませた。
 年上の子供はまたぶらぶら船を漕ぎ出した。他の者は船室の後
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