帰ろうじゃないか」というと、みんなはすぐに賛成して、勇ましく立上がり、三四人は船尾へ行って棹を抜き、幾丈《いくじょう》か後すざりして船を廻し、ふけおやまを罵りながら、松林に向って進んだ。
月はまだ残っていた。見物した時間はあまり長くもないらしかった。趙荘を出ると月の光はいっそうあざやかになった。ふりかえって見ると舞台は燈火の中に漂渺《ひょうびょう》として、一つの仙山楼閣《かいやぐら》を形成し、来がけにここから眺めたものと同様に赤い霞が覆いかぶさり、耳のあたりに吹き寄せる横笛は極めて悠長であった。わたしはふけおやまがもう引込んだにちがいないとは思ったが、まさかもう一度見せてくれとも言えなかった。
まもなく松林は後ろの方になった。船あしは決して遅くもなかったが、あたりは黒く濃く、夜更であることが知れた。彼等は芝居を罵り笑いながら船を漕いだ。すると舳《じく》に突当る水の音が一際《ひときわ》あざやかに、船はさながら一つの大白魚《たいはくぎょ》が一群の子供を背負うて浪の中に突入するように見えた。夜どおし魚を取っている爺さん連《れん》は船を停めてこちらを眺めて思わず喝采した。
平橋までは一里
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