坐った。年上の子供は船尾に聚《あつま》っていた。母親は送って来て「気をつけておいでよ」と言った時には、もう船は出ていた。橋石にぶつかって二三尺|退《しりぞ》いたが、すぐまた前に進んで橋を通り抜けた。そこで二|梃《ちょう》の櫓《ろ》をつけて、一梃に二人がかかって一里|行《ゆ》くと交替した。笑う者もあった、喋舌《しゃべ》る者もあった。その声は水を切って行《ゆ》く音と入り交った。左右はみな青々とした豆麦の畑をとおす河中に、われわれは飛ぶが如く趙荘さして進んだ。
 両岸の豆麦と河底の水草から発散する薫《かおり》は、水気の中に入りまじって面《おもて》を撲《う》って吹きつけた。月の色はもうろうとしてこの水気の中に漂っていた。薄黒いデコボコの連山は、さながら勇躍せる鉄の獣《けだもの》の背にも似て、あとへあとへと行《ゆ》くようにも見えた。それでもわたしは船脚《ふなあし》がのろくさくさえ思われた。彼等は四度《よたび》手を換えた時、ようやく趙荘がぼんやり見え出して、歌声もどうやら聞えて来た。幾つかの火は舞台の明りか、それともまた漁りの火か。
 あの声はたぶん横笛だろう。宛転悠揚《えんてんゆうよう》としてわ
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