ってわたしどもはゆっくり話をしたが、格別必要な話でもなかった。そうして次の朝、彼は水生を連れて帰った。
 九日目にわたしどもの出発の日が来た。閏土は朝早くから出て来た。今度は水生の代りに五つになる女の児を連れて来て船の見張をさせた。その日は一日急がしく、もう彼と話をしている暇もない。来客もまた少からずあった。見送りに来た者、品物を持出しに来た者、見送りと持出しを兼ねて来た者などがゴタゴタして、日暮れになってわたしどもがようやく船に乗った時には、この老屋の中にあった大小の我楽多道具はキレイに一掃されて、塵ッ葉一つ残らずガラ空きになった。
 船はずんずん進んで行った。両岸の青山はたそがれの中に深黛色《しんたいしょく》の装いを凝らし、皆連れ立って船後の梢に向って退《しりぞ》く。
 わたしは船窓に凭《よ》って外のぼんやりした景色を眺めていると、たちまち宏兒が質問を発した。
「叔父さん、わたしどもはいつここへ帰って来るんでしょうね」
「帰る? ハハハ。お前は向うに行き著きもしないのにもう帰ることを考えているのか」
「あの水生がね、自分の家《うち》へ遊びに来てくれと言っているんですよ」
 宏兒は黒
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