て売らなければ腐れるばかりです」
彼はひたすら頭を振った。見ると顔の上にはたくさんの皺が刻まれているが、石像のようにまるきり動かない。たぶん苦しみを感ずるだけで表現することが出来ないのだろう。しばらく思案に沈んでいたが煙管を持出して煙草を吸った。
母は彼の多忙を察してあしたすぐに引取らせることにした。まだ昼飯も食べていないので台所へ行って自分で飯を焚いておあがりと吩付《いいつ》けた。
あとで母とわたしは彼の境遇について歎息した。子供は殖《ふ》えるし、飢饉年は続くし、税金は重なるし、土匪《どひ》や兵隊が乱暴するし、官吏や地主がのしかかって来るし、凡《すべ》ての苦しみは彼をして一つの木偶《でく》とならしめた。「要らないものは何でも彼にやるがいいよ。勝手に撰《よ》り取らせてもいい」と母は言った。
午後、彼は入用の物を幾つか撰り出していた。長卓二台、椅子四脚、香炉と燭台一対ずつ、天秤《てんびん》一本。またここに溜っている藁灰も要るのだが、(わたしどもの村では飯を焚く時藁を燃料とするので、その灰は砂地の肥料に持って来いだ)わたしどもの出発|前《ぜん》に船を寄越して積取ってゆく。
晩にな
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