はゆきません。あの時分は子供のことで何もかも解りませんでしたが」
 閏土はそう言いながら子供を前に引出してお辞儀をさせようとしたが、子供は羞《はずか》しがって背中にこびりついて離れない。
「その子は水生だね。五番目かえ。みんなうぶだから懼《こわ》がるのは当前《あたりまえ》だよ。宏兒がちょうどいい相手だ。さあお前さん達は向うへ行ってお遊び」
 宏兒はこの話を聞くとすぐに水生をさし招いた。水生は俄に元気づいて一緒になって馳け出して行った。母は閏土に席をすすめた。彼はしばらくうじうじして遂に席に著《つ》いた。長煙管を卓の側《そば》に寄せ掛け、一つの紙包を持出した。
「冬のことで何も御座いませんが、この青豆は家《うち》の庭で乾かしたんですから旦那様に差上げて下さい」
 わたしは彼に暮向《くらしむき》のことを訊ねると、彼は頭を揺り動かした。
「なかなか大変です。あの下の子供にも手伝わせておりますが、どうしても足りません。……世の中は始終ゴタついておりますし、……どちらを向いてもお金の費《い》ることばかりで、方途《ほうず》が知れません……実りが悪いし、種物を売り出せば幾度も税金を掛けられ、元を削っ
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