と淋しさを現わし、唇は動かしているが声が出ない。彼の態度は結局敬い奉るのであった。
「旦那様」
と一つハッキリ言った。わたしはぞっとして身顫いが出そうになった。なるほどわたしどもの間にはもはや悲しむべき隔てが出来たのかと思うと、わたしはもう話も出来ない。
彼は頭を後ろに向け
「水生《すいせい》や、旦那様にお辞儀をしなさい」
と背中に躱《かく》れている子供を引出した。これはちょうど三十年前の閏土と同じような者であるが、それよりずっと痩せ黄ばんで頸のまわりに銀の輪がない。
「これは五番目の倅ですが、人様の前に出たことがありませんから、はにかんで困ります」
母は宏兒を連れて二階から下りて来た。大方われわれの話声《はなしごえ》を聞きつけて来たのだろう。閏土は丁寧に頭を低《さ》げて
「大奥様、お手紙を有難く頂戴致しました。わたしは旦那様がお帰りになると聞いて、何しろハアこんな嬉しいことは御座いません」
「まあお前はなぜそんな遠慮深くしているの、先《せん》にはまるで兄弟のようにしていたじゃないか。やっぱり昔のように迅ちゃんとお言いよ」
母親はいい機嫌であった。
「奥さん、今はそんなわけに
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