は城内の煮魚さえ見たことがない。
阿Qは「以前は豪勢なもん」で見識が高く、そのうえ「何をさせてもソツがない」のだから、ほとんど一《いっ》ぱしの人物と言ってもいいくらいのものだが、惜しいことに、彼は体質上少々欠点があった。とりわけ人に嫌らわれるのは、彼の頭の皮の表面にいつ出来たものかずいぶん幾個所《いくこしょ》も瘡《かさ》だらけの禿《はげ》があった。これは彼の持物であるが、彼のおもわくを見るとあんまりいいものでもないらしく、彼は「癩《らい》」という言葉を嫌って一切「頼《らい》」に近い音《おん》までも嫌った。あとではそれを推《お》しひろめて「亮《りょう》」もいけない。「光《こう》」もいけない。その後また「燈《とう》」も「燭《しょく》」も皆いけなくなった。そういう言葉をちょっとでも洩《もら》そうものなら、それが故意であろうと無かろうと、阿Qはたちまち頭じゅうの禿を真赤《まっか》にして怒り出し、相手を見積って、無口の奴は言い負かし、弱そうな奴は擲《なぐ》りつけた。しかしどういうものかしらん、結局阿Qがやられてしまうことが多く、彼はだんだん方針を変更し、大抵の場合は目を怒らして睨んだ。
とこ
前へ
次へ
全80ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
魯迅 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング