阿Q正伝
魯迅
井上紅梅訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)阿Q《あキュー》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)趙|太爺《だんな》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+丑」、第4水準2−12−93]
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        第一章 序

 わたしは阿Q《あキュー》の正伝を作ろうとしたのは一年や二年のことではなかった。けれども作ろうとしながらまた考えなおした。これを見てもわたしは立言の人でないことが分る。従来不朽の筆は不朽の人を伝えるもので、人は文に依って伝えらる。つまり誰某《たれそれ》は誰某に靠《よ》って伝えられるのであるから、次第にハッキリしなくなってくる。そうして阿Qを伝えることになると、思想の上に何か幽霊のようなものがあって結末があやふやになる。
 それはそうとこの一篇の朽ち易い文章を作るために、わたしは筆を下すが早いか、いろいろの困難を感じた。第一は文章の名目であった。孔子様の被仰《おっしゃ》るには「名前が正し
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