きたま人と喧嘩をした時、何かのはずみに目を瞠《みは》って
「乃公達だって以前は――てめえよりゃよッぽど豪勢なもんだぞ。人をなんだと思っていやがるんだえ」というくらいが勢一杯《せいいっぱい》だ。
阿Qは家が無い。未荘の土穀祠《おいなりさま》の中に住んでいて一定の職業もないが、人に頼まれると日傭取《ひようとり》になって、麦をひけと言われれば麦をひき、米を搗《つ》けと言われれば米を搗き、船を漕げと言われれば船を漕ぐ。仕事が余る時には、臨時に主人の家に寝泊りして、済んでしまえばすぐに出て行《ゆ》く。だから人は忙《せわ》しない時には阿Qを想い出すが、それも仕事のことであって「行状」のことでは決して無い。いったん暇になれば阿Qも糸瓜《へちま》もないのだから、彼の行状のことなどなおさら言い出す者がない。しかし一度こんなことがあった。あるお爺さんが阿Qをもちゃげて「お前は何をさせてもソツが無いね」と言った。この時、阿Qは臂《ひじ》を丸出しにして(支那チョッキをじかに一枚著ている)無性《ぶしょう》臭い見すぼらしい風体で、お爺さんの前に立っていた。はたの者はこの話を本気にせず、やっぱりひやかしだと思って
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