人也」といえば済む。しかし惜しいかな、その姓がはなはだ信用が出来ないので、したがって原籍も決定することが出来ない。彼は未荘《みそう》に住んだことが多いがときどき他処《たしょ》へ住むこともある。もしこれを「未荘の人也」といえばやはり史伝の法則に乖《そむ》く。
 わたしが幾分自分で慰められることは、たった一つの阿の字が非常に正確であった。こればかりはこじつけやかこつけではない。誰が見てもかなり正しいものである。その他のことになると学問の低いわたしには何もかも突き止めることが出来ない。ただ一つの希望は「歴史癖と考証|好《ずき》」で有名な胡適之《こてきし》先生の門人|等《ら》が、ひょっとすると将来幾多の新|端緒《たんしょ》を尋ね出すかもしれない。しかしその時にはもう阿Q正伝は消滅しているかもしれない。

        第二章 優勝記略

 阿Qは姓名も原籍も少々あいまいであった。のみならず彼の前半生の「行状」もまたあいまいであった。それというのも未荘の人達はただ阿Qをコキ使い、ただ彼をおもちゃにして、もとより彼の「行状」などに興味を持つ者がない。そして阿Q自身も身の上話などしたことはない。と
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